| 「 | ん〜〜、この辺で他に、気の利いたモーニングセットのある喫茶店ってーと・・・」 |
| 「 | いや先輩、もうこんな時間ですから中途半端にお腹に入れると、お昼の時に食べられなくなっちゃいますよ」 |
| 「 | ん? それもそうだな。それじゃぁコーヒーのうまいとこ行って誤魔化しとくか。昔っから茶腹もいっときてぇくらいのもんだしな。 じゃぁ次の信号で右に曲がるか・・。ちょうど信号も変わりそうだし」 |
| 「 | うわっとととと・・・。なんですか、この前の車。いきなりスピードを落とすなんて・・・。おまけに、中途半端なところで止まっちゃって。おかげで右折の矢印に間に合わなかったじゃないですか。信号が黄色になった途端に減速したり、交差点のずっと手前で止まっちゃうなんて、今日はいろんな車を見ましたけど、こんなの初めて見ましたね」 |
| 「 | おまえがウィンカーを出すのが早すぎたんだよ。あの車はね、さっきのあの距離だと突っ切るのはちょっと無理かななんて思いながらミラーを見たんだよ。すると後ろの車が右折しようとしてるのを見つけたわけだ。それで急に方針を転換してね、後ろの右折車の邪魔をしてやろうって事にした訳さ。急に減速したから止まったかと思ったろ? それも、右折帯と分かれるちょっと手前でね。だけど、実際にはずるずると動いていたんだよ。で、右折の矢印が消える直前のタイミングで更にちょっと前へ出るわけだ。後ろの右折車は未だ間に合うかって加速するけど実際には間に合わねぇ。そこで悔しがってる右折車を見てほくそ笑むって寸法さ」 |
| 「 | じゃぁ、あたしが右折するって知って、意地悪したってことですか? 普通だったら、後ろの車が右折しようとしてるのを見たら、邪魔にならないように左に寄りながら、せめて右折帯に分かれるとこまではそのままのスピードで行くようにするんじゃぁないんですか?」 |
| 「 | 甘いなぁ。ここは名古屋だよ。 この信号は右折の矢印が出ることが分かってるから、おまえとしては、丁度良いタイミングで右に曲がれると思ってたろ。だから左程スピードを落とさずにいたもんだから、あの車のドライバーも俺達が右折するつもりだなと感じたのさ。で、意地悪してやれって気になったんだろうね。あの時、もしおまえがウィンカーも出さず、左程減速もしなかったら、もしかするとそのまま赤信号で突っ切ったかも知れねぇな」 |
| 「 | そんな〜。それじゃ逆じゃぁないですか。普通、後ろからせっついてこられれば、追突されてもつまらないから、周囲の状況によっては、突っ切っちゃうこともあるでしょうけど」 |
| 「 | だから最初に言ったろ? 人の・・・」 |
| 「 | 分かってますよ。嫌がる事をしましょう、って言うんでしょ? しかし今対向車線を見てて思ったんですけど、すごいですねぇ」 |
| 「 | いや、ほんと。この俺も驚いたよ」 |
| 「 | 右折の矢印が出てるのに3台も直進して行きましたからねぇ」 |
| 「 | ん? 『も』? 俺は3台しか通らなかったんで驚いたんだがねぇ」 |
| 「 | 『しか』ですか?」 |
| 「 | 今みたいに右折矢印が出るのに対向車線に右折車がいない時は、少なくとも9台は通るよ、普通。つまり3車線で、3台づつは通るってこった。今の時間帯、向こうの車線は通勤の方向とは逆だからな、通行量が少なかったからだろうね。 ここの連中は、交差するほうの信号が青になるまでは自分達が通ってもいいって思ってる奴が多いってこったな。ところが対向車が右折してくる時にはぶつかるから、そう言う時には諦めて止まるって訳だよ。しかし、ひでぇ奴になると、対向してくる右折車が1台しかいないと見て取ると、ずるずると前進しながら、右折車を行かしといて、その後悠々と直進してったりしてね。 特に土・日曜のドライバは、たまにしか乗らない奴が多いから、右折の矢印が消えるまで直進し続けるなんてこたぁ当たり前みたいだね。そう言った連中が行った後で右折を始めると、もう左右から車が飛び出してきてたりしてね。だから土日に仕事をすんのは怖いんだよ」 |
| 「 | そんなに・・・? だけど先輩、そうそう悪い人ばかりじゃぁないみたいですよ。あの対抗車線で止まってる車を見ると、皆停止線よりも1メートルも手前で止まってるじゃないですか。中には2メートルも手前で止まってる車もありますよ」 |
| 「 | だからおまえはおめでたいって言われんだよ。良く見てみろ。鼻っ先はばらばらだろ? どこがそろってるかを見りゃぁその理由も分かるってもんだ」 |
| 「 | 確かに、鼻面はばらばらですけど・・。どこがそろってるって・・・?」 |
| 「 | キャブオーバー型の奴は、引っ込んでんだろ? 鼻っ面の長い奴は頭が出っ張ってんだろ? じゃぁどこがそろってんだよ。運転席が横一列になってんのが分かんねぇかなぁ」 |
| 「 | ア、そう言えば・・。 でも、なんで?」 |
| 「 | ここまで言っても分かんねぇかい? 屋根を見てみろ、陰が出来てんだろ? で、更にその上を見りゃぁ、横断歩道橋があるって訳だ。この暑い時期には良くある光景さ。今は未だ昼前だけど昼過ぎになると陰の位置がづれる訳だ。するってーと今度は、停止線よりずっと前に出てるってことになるのさ」 |
| 「 | はぁ〜、日陰に停めてるってだけのことなんですか・・・」 |
| 「 | いくらクーラーやエアコンが有っても、日が当たると暑いからな」 |
| 「 | ところで先輩、目の前を横切った車が列になっちゃって塞いでるんですけど。これ右に曲がったとこ、渋滞してるんじゃぁないんですか?」 |
| 「 | あれ? おまえ今バスが目の前を横切ったの見てなかったかい? 左から右へ・・」 |
| 「 | 見ましたけど、それが関係あるんですか?」 |
| 「 | これを右に曲がったすぐんとこにバス停があんだよ。で、それにくっついてった車が目の前をふさいじまったってぇ訳だ」 |
| 「 | 渡ってすぐにバス停ですか?」 |
| 「 | 場所にもよるがね、だいたい数十メートルんとこにバス停が有るこたぁ多いね。俺もいろんなとこへ転勤で行ったこたぁ有るけど、交差点を渡ってすぐんとこにバス停のあるとこってのがあんまし、記憶にねぇんだなぁ。ま、よそでもそう言うとこはあんだろうけどね。 今は通勤時間じゃぁねぇからまだ良いんだが、ひでぇ時なんか、違う会社のバスも一緒になって2台も3台も繋がったりしてね。で、乗降客が多いと、その間に信号が変わったりするし・・・」 |
| 「 | じゃぁ前を塞がれたまま?」 |
| 「 | うん、読みの浅い奴がくっついてたりすると、身動きが取れねぇなんてこたぁ結構有るよ。ま、読みが浅いと言うより、前が詰まったからって、交差点の手前で待つなんて奴はいないけどね、ここでは」 |
| 「 | だけど渡りきれない時には交差点に進入してはいけないって・・・・」 |
| 「 | 俺だって、そんくらいのこたぁ知ってるよ。だけどここの連中は知らねぇの! 知ってるけど知らねぇの! 待つとかやり過ごすとかってことを知らねぇの!」 |
| 「 | そんな、感嘆符をつけて喋らなくっても分かりますよ」 |
00/08/22