手習い 5 [ バスレーン3 ]


ギャッギャギャーーーー!

おいおい、なんて停まりかたしやがんでぃ」
だって先輩、今第一車線の左折車の間から人が急に飛び出してきたんですよ」
あぁ、それね、よくあることさ。 なことより後ろがつかえるからさっさと走れよ」
そんな・・・。気安く言わないでくださいよ。あたしはもう肝が縮み上がっちゃいましたよ。あ〜〜、怖かった。それより先輩、のんびりとリクライニングしてないで体を起こして一緒に前を見ててくださいよ」
そりゃ、おめぇにしてみりゃこの道を走るのは初めてかもしれねぇが、車の間から飛び出してくる奴らはその道のベテランなんだから、心配いらねぇって。それにな、おめぇが怖がってるほど連中は怖いなんて思っちゃぁいねぇんだから」
だけど、何だってあんなところから飛び出してくるんですか?」
そりゃぁ、バス停にバスが停まってるからさ。ところがこっちの信号が赤にならなけりゃバス停に渡るための信号が青になんねぇだろ? それにバス停のほんとの入り口は横断歩道側だけだが、第二車線との間にある壁より手前からなら回り込むことが出来るから横断歩道の方から回り込むよりは近いって訳じゃぁねぇか」
だけど、そのために命を落としたとしたらたまったもんじゃないでしょ」
あの連中はな、自分がどんなに悪い事をしても、何かがあった時にゃそれは相手のほうが悪いと思ってる連中だからな。だからもしはねられたら、『どこ見て運転してんだ、このぼんくら野郎』とか言うつもりなんだよ」
そりゃぁ、生きていられればの話でしょ? はねられて死んじゃったら文句を言うどころの話じゃないじゃないですか」
そんなこと考えちゃいねぇよ。例えばあの連中とロシアン・ルーレットをやってみな。きっと平気で何回でも引き金を引いて見せるだろうよ。もし弾が飛び出しても、弾のほうで自分を避けて飛んでってくれるって信じてる連中だからな」

ギャッギャギャーーーー!

おいおい、今度ぁなんだよ」
バスレーンを走ってた車がいきなり前へ割り込んできたんです」
そりゃぁバス停にバスが停まったからさ。よくあることよ」
なんかどこかで聞いたような・・・。 だけど、合図もなしにいきなりですよ」
だから、それもよくあることさ」
進路変更するのに合図しないんですか?」
名古屋人に言わせるとだな、進路変更のたんびに一々合図をするのは素人のすることだとよ。右折左折でも合図を出さない奴は多いんだよ。まして、進路変更だろ。曲がるわけじゃぁねぇんだから・・」
そんなもんですか・・・?」
名古屋で走るのが怖くなったろ? 荷物をまとめて帰るかい?」
いえいえ、まだまだ・・・」
それじゃぁ、そろそろバスレーンを走ってみなよ。今のバス停でバスを追い抜いたばかりだから、しばらくはバスに追いつく心配はねぇだろうしな。

さて、バスレーンを走るにあたっては、先に注意しといたほうがいいかな。なんてちょっと偉そうだな。がっこのせんせぇにでもなったような気分だな。

まず、これはこのバスレーンに限らねぇんだが、車線が多いとこではよくあることなんで覚えとけよ。さっきもあったろ? 合図もなしにいきなり割り込んでくる奴が多いってこった。これはね、この辺の連中の癖みたいなもんだが、ブレーキより先にハンドルなんだよ。さっきの急ブレーキを見ておめぇがハンドルより先にブレーキだってのは分かったから、特に注意することもねぇんだろうが、第三車線の右には分離帯の柵しかねぇんだから逃げようがねぇってのに、ハンドルで逃げて柵を壊す奴が結構多いんだなぁ。

どういうとこで多いかってぇと、左に駐車している車がいたり、左折の信号待ちの車のいるあたりだね。第一車線の車が右へ逃げるんだが、第二車線の車はそんなやつ入れてやるかってんで、右へかわしながらアクセルを踏んで前へ出ようとすんだよ」
じゃぁもし中央分離帯がなかったら?」
当然対向車線に飛び出すよ。昔のこったが、まだ俺が22〜3歳のころだったかねぇ。当時、神奈川に住んでたから向こうで免許を取ってね、休みの時に車で帰ってきたことがあったんだが、片側5車線の道なのに対向車がセンターラインを超えて追越をかけてきたのをみて、怖いと言うよりあっけにとられたもんさ。今、名古屋では片側が2車線以上の道で分離帯のないとこはないくらいだ。分離帯が無いのは、この俺が知ってる範囲では県道の一つだけだな。だからね、この名古屋での中央分離帯ってのはある意味『檻』みたいなもんだと俺は思ってるよ」
乗用車ならまだしも、バスなんかじゃ簡単に逃げられませんよね」
そうだな。それにまたバスもかなりきついんだよ。そうやって第二車線から飛び込んで来そうになると、それをクラクションだけで追い出そうとすんだ。ここはバスの道だからおまえら乗用車は入るなぁ!って感じなんだな。だけど乗用車はもう第三車線に逃げるしかない状態になってるから構わず飛び込むだろ。で、ドッカーン! だけどね、最近では減ったよ。そういう事故はね

おい! 減速! ブレーキ!」
え!? あ、はい」
あのなぁ、この交差点のなかのバスレーンの蛇行は、思ったよりきついことが多いんだよ。車の性能や、運転者の技術ではスムーズに抜けられるとしてもだな、俺たち雲助が運んでんのは人間なんだよ。特に深夜、酔っ払いを乗っけてる時にあの勢いで蛇行してみろ。お客は踏ん張りが効かねぇからガラスに頭をぶつけたりすんだ」
すんません、つい・・・・」
ま、何回か走ってりゃぁ、自分で気が付くことじゃぁあるがね。

後、気をつけなきゃぁなんねぇのはバス停だな。普通だとバス停は第一車線のほうだろ。で、第一車線にはたいてい路側帯があるからバス停と車の間は結構あいてるもんだ。それに第一車線ではそんなに飛ばさねぇしな。ところが、ここでは第三車線だからついみんな飛ばしちまうんだよ。おまけに路側帯もねぇし。ところが、そんなとこで、バス停にいた人がひょいっと頭を出したもんだから、頭がクチャクチャって事故が前にあったんだ」
せんぱ〜〜い、まだ飯前なんですけど」
その頭を出した人ってのは持ち物が道路に落ちたんで拾おうとしたんだよ。で、屈んだもんだから、頭が車道にはみ出しちまってなぁ」
ウェップ・・」

00/04/15