| 「 | 口でごちゃごちゃ説明してたって中々わかるもんじゃぁねぇんだし、昔っから百聞は一見にしかずってぇくらいのもんだ。とにかく走りながら自分の目で確かめてみんのが一番手っ取り早いってぇもんだ」 |
| 「 | そうですね。エンジンもあったまったようですし、出掛けますか」 |
| 「 | そこで問題なんだな。家の車庫はな、バックで入れる訳にゃいかねぇ様な構造になってるわけだ。どう言うことかってぇとだな、国産車の場合はハンドルが右にあるから右のドアから出入りするために、車を左の壁に寄せるだろ? ところが、この車庫はバックで入れて左に寄せるってぇと奥にある家に入れなくなっちまうんだ。だから車庫に入る時に頭っから入ってるわけだが、出る時にゃ今度はケツから出なけりゃぁならねぇ」 |
| 「 | あ、それで頭から入っていたんですか。だけど、バックで出るのになんか問題があるんですか?」 |
| 「 | 頭から出るのに比べりゃぁ、まず見通しが悪いってぇのが一番の問題だよな。運転席から車の鼻っ先までの長さと、一番ケツまでの長さを比べりゃぁ、ケツまでのほうが長いだろ? おまけに右の後ろを見てから左の後ろを見るためには体を大きく捻らなくっちゃぁならねぇ。で、じわじわと右を見たり左を見たりしながらバックしてくんだが、いきなり後ろをブワーッと車が通りすぎたりするんだよ」 |
| 「 | いきなりですか? クラクションをビビッとか鳴らさないで?」 |
| 「 | そりゃね、中にゃ親切な奴もいてね。クラクションで合図してくれる奴もいるけど、大抵はいきなりブワーって通過すんだよ。ある程度バックすりゃ、左右が見えるようになるんでね、車が来てりゃぁ目で確認できっから、別にクラクションで合図してくれなくったって構わねぇんだが、そこまで行かないうちはびっくりしちまうよ」 |
| 「 | 怖いですねぇ。私だったら、そろそろっと出てくる車のドライバーが見えない時は、相手からも自分が見えない訳だから、やはり車が来てることを知らせる意味で、クラクションを鳴らしますけどね」 |
| 「 | それがまた面白ぇところなんだが、相手のドライバーが見えねぇってこたぁ、相手からも自分が見えてねぇってことだと普通は考えるよな。だからそういうときにゃぁクラクションで知らせるのも当然だと思うんだが、逆なんだよ。例えば脇の小路から出ようとする時に、一旦停止するだろ? で、安全を確認してるとだな、止まってるのにクラクションをしつっこく鳴らしていく奴ぁ結構多いんだよ。この俺が相手を確認できてんだから、相手からだってこの俺が見えてるわけだろ? しかもずるずるっと動いてるってんならともかく、ぴたっと止まってるってのにしつっこくクラクションを鳴らしやがる」 |
| 「 | 用心深いんですかね」 |
| 「 | 用心深けりゃぁ、バックで出てくる車にこそクラクションで知らせるんじゃぁねぇか?」 |
| 「 | そりゃそうですね」 |
| 「 | で、もう一つ問題がある。すぐそこに信号があんだろ? で、信号が赤になると、当然走ってきた奴が停まるわけだが、3台目か4台目の車は丁度うちの車庫の前を塞ぐようになんだよ。まだ俺の車が車庫の中にいるってんならともかく、もう三分の1位バックしててもその後ろを塞ぐ奴が結構多いんだなぁ」 |
| 「 | 気が付かないんですかねぇ」 |
| 「 | 気が付かねぇ訳がねぇだろう? 半分くらい出っ張ってても塞ぐ奴が多いんだから。それでもね、未だ以前からするとましな方なんだよ。以前は軽自動車で通勤してたからね。完全に無視されつづけたねぇ。クラクションをバンバン鳴らされたりしてね。お袋が具合が悪くなって通院したりした時にね、軽じゃぁ狭いしってんで、クラウンのハードトップの中古を買ったんだが、とたんにねバックを始めると止まってくれる車が増えたね。その後MR2だろ? そして、今の営業車だ。2台に1台位は停まってくれるようになったが」 |
| 「 | 軽自動車は小さすぎて目に入らなかったとしたら?」 |
| 「 | おいおい、それじゃぁ、軽自動車より小さい自転車や歩行者はみんな目にはいらねぇってのか? それより、今丁度車の流れが切れてっから車庫から車を出しちまおう。 それでと、おい、そこで止まれ。うちの車庫にはシャッターはないがね、あるとすりゃぁ今丁度鼻っ面がシャッターのところから出た位の位置になるわけだ。名古屋の奴らがよくやるのはこの状態で車を降りてってね、シャッターを閉めに行くんだよ」 |
| 「 | この状態でですか? この通りは黄色いセンターラインのある道ですよね。幅はどれくらいあるんですか? 歩道を含めて11メートル? それでも車道の半分以上を塞いじゃってるじゃないですか。他の車が来たら大変ですよ。 それこそ怒鳴られたくないですから車を端へ寄せますよ」 |
| 「 | おまえが気にするこたぁねぇんだよ。この名古屋ではみんな自分が一番偉いと思ってっからね、道を塞ごうが何をしようが、人はみんな自分のために待ってくれると思ってるわけだ」 |
| 「 | じゃ、他の車はこう言う場面に出くわすとじっと大人しく待ってるんですか?」 |
| 「 | 馬鹿言え。そんな訳ねぇじゃねぇか。名古屋人はみんな偉ぇんだから、目の前で道を塞いでる車がいたらそれこそ、この時とばかりにクラクションを鳴らしっぱなしにして早くどけろって怒るよ」 |
| 「 | ですよねぇ。じゃ、その道を塞いでた人は謝るんですか」 |
| 「 | まさか。謝るくらいならはじめっからそんなことするかい。クラクションを鳴らして怒ってる奴を睨みつけてね、こう言うんだよ。 そんな意地悪しなくってもいいじゃないですか。シャッターを閉めてくる間だけですよ。それっぱかりの時間がどうして待てないんですか? ってね これは大人しい奴の言いかただがね。これが気の短ぇ怒りっぽい奴だとまた違う言い方になるんだな。 馬鹿野郎、ビービービービーとうるせぇんだよ。俺が何してるか見りゃぁ分かんだろう? このまんま車を動かさかねぇでこの俺がどっか行っちまったってんならともかく、ただシャッターを閉めてるだけなんだから大人しく待ってりゃぁいいんだよ。俺がどっか行って帰ってこねぇってんならそん時にビービーならしゃぁいいじゃねぇか。 なんてね」 |
| 「 | そんな・・・。どっかへ行ってしまってから鳴らしても遅いじゃないですか。それに他所では先ずこんな停め方をしてシャッターを閉めに行くことはありませんけど、もし、こんな停め方でシャッターを閉めに行ったとしても、他の車が来た時には謝りますよ。声が聞こえないような状態なら少なくとも頭だけでも下げますけどねぇ。 もし、私だったら、 あ、すいません、直ぐに退けます。ご迷惑をおかけしました。といった感じで・・・」 |
| 「 | そりゃね、おまえが未だ常識のある人間だからだよ。それにさっきも言ったよな。人が迷惑だと思うこと、嫌がることをするのが、行動の基本だって」 |
| 「 | 普通、そこまではしませんよ」 |
| 「 | じゃぁ、そこまでするってことは?」 |
| 「 | 普通じゃない?」 |
| 「 | 分かってんじゃぁねぇか。 それから、ここの場合はセンターラインのある、そんなに狭くもない道だが、もっと狭い道があるだろ。そこでね、迷惑を掛けないようにってんで完全に車を端へ寄せてシャッターを閉めに行ったとしてもね、やっぱりビービーとクラクションを鳴らされることもあんだよ。端へ車を寄せてありゃぁもう一台の車が悠々と通れるような所でもね、その端へ停めてある車の後ろにつけといてね・・・」 |
| 「 | それじゃぁまるで嫌がらせじゃぁないですか」 |
| 「 | まるで? 違うよ、嫌がらせそのものさ」 |
00/03/15