手習い 11 [ 交差点で-3]


今の店って、結構上手いコーヒーを出すだろ?」
一寸好みが分かれるところかもしれませんけど、なかなかでしたね」
自家焙煎でね、かなり深めに煎ってるんで人によっては一寸いやがるかも知れねぇが、どちらかといえば日本人好みなんじゃぁねぇかな。
さてと、又さっきのバス通りに出て、来た方へ戻ってみるかな」
今度はどっちの方へ行くんですか?」
中心部へ行ってみねぇか? 営業マンなんかが既に活動を始めてるだろうし、名古屋人の名古屋走りを見ようと思えば、やっぱ中心部だろうねぇ」
じゃ、駐車場から左へ出て、さっきのバス通りへ、と。 ん、右から車。 やり過ごして・・・」
出ちゃえよ! ほれ早く!」
え? いや、いくらゆっくり走ってるといっても一寸まずいんじゃ・・。 良し、行った。後続車はない。で、スタート」
停まれ!」
え? 今度は停まれですかぁ? さっきは早く行けって。 あぁ〜〜、なんで目の前に停まってんですか?この車。この交差点って、向うから来る時は一時停止だけど、こっちから行く時は、注意さえしてればいいんでしょ? 何で停まってるんですか?」
良く見てみろよ、交差点に頭を突っ込んで停まってんだろ? それも、真中で。今ね助手席に乗ってた奴が降りるとこだよ。見ててみな、左のドアが開いたろ? さっきおまえが、駐車場から出ようとした時、こいつらの車は停まり掛けてたんだよ。それをおまえが止まってやり過ごそうとしたもんだから、それならご好意に甘えてって感じで、前まで出ておいて停まったてぇ訳だ」
・・・。だって、人を降ろすつもりで停まり掛けてたんですよね。わたしだったら、先に駐車場から出ようとしてる車を行かせておいてからその後でゆっくり停まって、人を降ろしますよ。それが普通でしょ? じゃなきゃ、駐車場の出口の手前で停まるか。」
さっきも言っただろ? 自分の方が一時停止でも、相手が停まってりゃぁノンストップで行っちゃうようなとこだよ、ここは」
ふぇ〜〜、危ない、危ない。又一つ勉強になりましたね。しかしねぇ、普通なら自分がすぐに停まるつもりの時は、横から出ようとしてる車を出してやりますけどねぇ。まさか目の前を通りすぎた車が、すぐに停まってるなんて考えても見ませんでしたよ。もう少しで追突するとこでしたね。
あれ? 今の車、人を降ろしたら左へ曲がって行っちゃいましたけど・・・。 え? なぜ・・? どうせ左へ曲がるんだったらなんで左へ曲がってから人を降ろさなかったんですか? そうすれば自分自身だって追突される心配はないし、他の迷惑・・・。 あ、他人の嫌がる走り、他人に迷惑をかける走りをするんでしたね。」
じゃぁなければ、よほど頭が悪いか、それとも自分以外の車が走っていないような田舎から出てきた奴か・・・・。」
そりゃま、田舎で自分以外に車で走ってるもんがいなけりゃ、したい放題でしょうけど。だけど、昨日今日出てきたわけではないでしょう?」
まぁな、仮に昨日今日出て来たにしても、ここは田舎と違うと言う認識さえあれば、どうすれば人に迷惑をかけずに済むかくらいは考えるこたぁできるだろうと思うよ。」
じゃぁ頭が悪いと言う事ですか?」
さぁなぁ・・・・。それよりバス通りに出たら右へ行こう」
はい。それから、さっき言ってた突っ込み合いの事故ってのはどんなのですか? 譲り合いの事故って言うのは私も見たことがあるんですけど。お互いが、どうぞ、どうぞって言ってて、最後に、それではご好意に甘えてって両方が出るもんでぶつかっちゃうって言う奴でしょ?」
うん、まぁそんなとこだ。それより、右から車も来てない事だし、さっさと右に曲がっちまえ」
だけど、今度は左から車が来てますよ。それにこの道へ入って来ようとしてるみたいですし」
ああ言う運転をする奴はへたくそだから、さっさと行っちまうか、さもなきゃぁブレーキをしっかり踏んで踏ん張ってた方がいいぞ」
どういう事・・・?
うぁ、なんですか、この小回りは・・。 こんなに斜めに突っ込んで来たら回りきれるわけないのに! あぁ!ぶつかる〜〜! ふ〜っ、停まった。
え? 先輩この人、手の甲をこっちへ向けてひらひらさせてますけど退れっていう事ですか? なんか酷いですね。いったい人をなんだと思ってるんでしょうか」
窓を開けて『へたくそ』って怒鳴りつけてやれ! こっちは相手が優先道路だから待ってやっただけの事なんだから。その上、自分の腕が悪くて回りきれなかったのを人のせいみたいな顔して退がれだなんて冗談じゃぁねぇ。退がってやる必要なんかねぇからな。 もっと先へ出て、きゅっと回り込んでくれば回れるものを、手前の方から回り始めたりすれば、回りきれるわきゃぁねぇんだ? 自分の腕が悪いと知ってりゃ出ようとしている車を先に出して置きゃぁいいんだよ。へたくそに限って、優先権を主張したがるし、でかい車に乗りたがる。もっと分をわきまえろって言ってやれよ」
あ〜ぁ、一所懸命切り返してますけど、なんか同じとこで行ったり来たりしてるだけみたいですよ」
一服しながらのんびり眺めてりゃぁそのうちなんとか回りきれるだろ? こう言う奴等は、優先道路だからお前等は脇道から出てくるなって威張る事ばっか考えてるから悪いんだよ。回りきれなきゃぁ相手にバックさせればいいさ、なんてね。安易な事を考えてるもんだから結局自分が苦労する事になるんだよ。この場合、相手を先に行かせてやるのは他人に対する思いやりってばかりじゃぁなくって自分自身に対する思いやりでもあるんだけどな」
先輩も結構冷たいことを平気で言うんですね」
そうじゃぁないだろ? 愛の鞭さ。 誰かがこう言うことをしなきゃあのドライバーは何時までたっても甘ちゃんで終わっちまうだろ? ま、もっともこの辺の連中はこういったことを学習しない傾向があるんで、どれほど効果があるかは疑問だがね。例えばさ、一日この車に追いて走ってみな? 多分同じような事を何度でもするだろうよ。つまり、さっきのは相手が悪かったが今度は上手く行くに違いないとか考えてさ、又馬鹿な事をやるわけだ」
それって、かなり馬鹿にしてませんか?」
かなり? そんな事ないよ。 徹底的に馬鹿にしてるよ。 大体、こいつ等タクシーの運ちゃんなんてのは雲助ばかりだなんて馬鹿にしてるくせに、へたくそなんだよ。で、へたくそって言えば、『あんた等はプロなんだから上手いのは当然だ』とか言ってさ、そう言う時だけ俺達のことをプロとか言うんだよな。そのくせ雲助に馬鹿にされると『てめぇ等雲助だけには言われたくねぇ』なんてまた怒る。」
かなり私情が入ってませんか?」
そうか? もうちっと押さえるか…」 

00/10/31